人の醜いところを山ほど谷ほど見てきただろうこの古道だが、もちろん何も語ってくれることはない。
荷積みした馬が日に100頭も往っては来た幹線道路だ、荷を狙った山賊がいたことだろう。
三河の西と東を繋ぐ線であれば豪族たちの戦の道としても使われたことだろう。
そこで待ち受けた悲劇は想像するに痛い。
人の業を長らく見続けてきた道根往還は心を閉ざしてしまっているのだ、
1,000年の足数に踏みつけられた土は固く、
頭上の森は深くて明るい日差しが差し込んでいることが限られている。
もちろん、いくらかの楽しい思い出はあったと思いたい。
旧知の者同士が道根往還で何十年ぶりにばったり再会。
新生活の夢を持って意気揚々と歩いた若者がいるかもしれない。
総数で言えば、道根往還は目をそむけたくなるような悲しみの方を多く目にしたのではないかな。
唯一の救いは、平成の現在ではここ道根往還を通る人たちは皆全てご機嫌ということ。
ハイキング、マウンテンバイク、トレイルランニング。
楽しみの最中にいる人しか通ることがなくなった岡崎・道根往還の写真、ようやく明るい光を迎える100年になった。
不幸な900年と、幸せの100年、その比率が逆転する900年先まで、私は道根往還の維持継続を願おう。
人の幸せを多く見て欲しいから。