未来の車の始まりはプリウス、時代を先駆けたハイブリッド技術

「未来の車・プリウスは、ハイブリッド車界の小野道風さ」

パワースイッチを押して走り出す。

駐車場の暗がりから車道の日なたへ出ると、ケンは悪戯な表情をしてそう言った。

「何て言うのかな、今のガソリン車は燃料電池車・電気自動車へと進化してゆくよ。

その途中でさ、何でもそうだと思うけど、物事がはっきりと転調した瞬間ってあるよね?」

助手席から覗く彼の視線の先には、なんだか難しいコクピットモニターがある。

ディスプレイされているモーターとエンジンの難しい燃費情報も、

ケンにとっては爽やかに吹く春風のようで、いとも簡単に読みこなしてしまうのでしょうね。

「ちょっと変わったお話になる。

日本人が書いている書って中国の書道に近いけど、決して同じではないって分かるよね。

中国から輸入された書道が、長い歳月を経て、日本スタイル「和様」に変化して現代に至るんだ。

その和様の筆跡を遡るとね、これは日本の書道史ってことになるけど、

中世・平安時代の小野道風という人の書から、別物になっているんだ」

「今度は書道のお話?あなたは変わったお話を本当に一杯知っているのね」

ケンって不思議。

ある朝は飛行機が飛ぶ原理を語ったと思ったら、ある夜はペルセウス流星群のことを語るの。

今度は何?日本書道史のお話って、どこでそんな知識を得ているの?

「有名なお話さ!中国からの輸入物と、日本固有の書、その違いを確立したのが小野道風だからね。

海外の真似からの脱却、日本文化の自立、青が藍から生まれて青に変わってゆく。

そうだ、藍は青より出でて藍より青し。

真っ直ぐ突き立てる過酷な中国書より、優雅な日本の書道のほうが僕は美しいと感じるよ。

和様漢字の美の始まりは小野道風から、僕が興味を持ちそうなことじゃないか」

「それは分かるな~。でも書道とプリウスの共通点、未来の車との関連性って分かんないな~」

「1997年の終わりに販売されたトヨタ・プリウス。

ガソリン車全盛時代の今でこそ、まだ実感が沸かないけど、

近い未来には未来の車と呼ばれる燃料電池車か電気自動車が主流になって、ガソリン車は時代遅れになる。

まだ50年先のことだと思うけど、いつかみんなは振り返ると思うよ。

どこが昔の車と未来の車の境目なのか、って」

話を勿体ぶってケンが押し黙る。

会話が途切れると、エンジン音はかすかに聞こえるものの、とても静かな車内。

これがハイブリッドシナジードライブの醍醐味。

「それがトヨタ・プリウスなんだよ!

プリウスが未来の車との境目なんだよ!

書は小野道風、車はプリウス、過去から脱却し、未来を切り開いたパイオニアたち。

プリウスって、素敵な響きじゃない?

”プ”っていう、破裂音の子供じみた、やんちゃなところ、

”リウス”っていう音は品格を出していて、それでも高級過ぎない感じ。

通して”プリウス”って発音すると、なんとも未来を感じさせる、

ちょっと腕白で、クラシックでもあって、通して異質過ぎない魅力的な音だと思うな」

「ケン、プリウスっていう言葉の意味は何?英語ではないと思うけど」

「そうだよ、英語じゃない。プリウスって奇跡みたいだ。

ラテン語で”先駆ける”を意味するのが、”プリウス”なんだ。

もうこれってはまり過ぎ。これ以上ない、最高のネーミングじゃないかな。

未来の車を”先駆ける”のがプリウス。

商売を越えて、なんか神の符号みたいなものを感じるよ」

ご機嫌になったケンはEVドライブモードスイッチを押して、モーターだけの走行に切り替えた。

エンジン音がなくなり、モーターのみの静かなクルーズ状態。

「未来を先駆ける車、いいや、もうトヨタはプリウスで未来の車を先駆けたんだよ。

ハイブリッド技術は未来の自動車業界のメインキーワードだ。

この流れは燃料電池車につながって、車はCO2ではなく水だけを排出するようにある。

まぁ、昨今では電気自動車のほうが未来を掴む可能性が出てきてはいるけど。

あえて今、僕は宣言させてもらうよ、プリウスは未来の自動車界の小野道風だって!

きっと50年後に僕と同じことを言う専門家が現れるだろう。それが僕の老後の楽しみさ。

そう言ってケンは楽しそうに笑った。

未来の車を見越して、ケンは自動車に何を託しているの?

わたしも考えてみようと思った。

ガソリンから水素へとエネルギーが変わってゆく過渡期に生まれたハイブリッド車、

それって今までの大きな流れを断ち切る、未来の車の重要な変換期なのでしょう。

未来の車のはしりがプリウスだって、わたし、なんかそう思えてきたよ、ケン!